腰痛は、全人類の8割が経験すると言われるほど、多い症状です。
腰痛に悩む日本人は1000万人超えで推移しているといわれています。
これはおよそ10人に1人が現在腰痛に悩んでいることになります。
また、腰痛の原因は85%は解らない(レントゲンやMRIなど)とされており、長い間腰痛に悩まされる人も少なくありません。
それに、 日本人の約90%が一生に1度は腰痛を経験するといわれており、腰痛はまさに国民病といっても過言ではない状況になっています。
では腰痛を防ぐことは不可能なのでしょうか?
そんなことはありません。腰痛を防ぐには普段の生活習慣を見直すことが大切です。
ここでは、腰痛の種類や原因。
また、たくさんある治療法や日頃からできる予防法などについて詳しく解説させていただきます。
腰痛に悩まされている人はぜひ参考してみてください。
目次
腰痛の主な種類
腰痛といっても痛める場所や状態によって症状名にいくつかの種類があります。
まずは基本的な腰痛の種類を知りましょう。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎(腰部の背骨)の間にある椎間板の中から髄核(ゼリー状のもの)が飛び出し、腰椎周辺の神経を圧迫して腰の痛みだけではなく脚のしびれや痛みを併発します。
腰部脊柱管狭窄症
腰部の脊柱管(脊髄神経が通る部分)が何らかの原因で狭くなり、脊髄神経や血管を圧迫してしまい、腰椎椎間板ヘルニアと同様に腰の痛みと脚のしびれ・痛みを併発します。
また、間欠跛行(歩くと脚の痛みが強くなり、休むと楽になることを繰り返す)が特徴的な症状です。
すべり症
腰椎が前方に滑った状態になっています。ひどくなると腰部脊柱管狭窄症となり、脚の症状も強く現れます。
腰椎分離症
10代に多くみられ腰椎の疲労骨折とも言われ、とくに腰を反らした時に痛みが強まります。
これらの他にも腰椎骨折、急性腰痛症などがあります。
それぞれ、病態が異なるため、初期の段階で適切な処置をしてもらうことが大切です。
そのためには、まず病院で診断を受けることが治療の第一歩となります。
また、ここに挙げたものは病院のレントゲンやMRIなどで判別できるものですが、冒頭でも述べたようにレントゲンやMRIで判別できない腰痛が85%あると言われ
- 筋筋膜性腰痛症
- 仙腸関節障害
などがあります。
そして、慢性的な腰痛になると、脳の影響があるという研究報告があります。
腰痛を引き起こす基本的な3つの原因
次に腰痛の原因を解説していきます。
腰痛を引き起こす大きな原因は
- 生活習慣
- 運動不足
- 動作不要
この3つです。
生活習慣
長時間の同じ姿勢(デスクワーク、長距離運転など)は、腰への負担が大きいです。
睡眠不足、食生活の乱れは、痛めた身体の回復が遅れがちです。それが、結果として腰痛につながることがあります。
運動不足
運動は筋肉をつけるだけではなく、血流の改善、代謝の促進、神経系の活性化など健康を保つうえで大切です。
そのため、適度な運動ができないと腰痛のリスクが高まります。
動作不良
歩き方、荷物の運び方、スポーツのフォームなど腰に負担をかける動き方があります。
一例をあげると股関節が上手く使えていないと腰で動きを代償して負担をかけてしまいます。
腰痛の改善方法と治療について
腰痛は早期に改善することが大切です。
とくに動くことも苦痛な腰痛は自己判断せず、まず病院を受診してください。
なかには
- 緊急を要する腰痛(腹部大動脈瘤、内臓疾患など)
- 手術を要する腰痛(骨折、排便排尿障害を伴う腰痛など)
もあります。
また、腰痛発症後は痛みのコントロールも大切で、 抗炎症薬を病院で処方してもらうことで痛みが和らぎ、自然治癒で腰痛が改善されることがあります。
なによりも腰痛は急性期(3日~2週間)の間に解消もしくは緩和させ、 慢性化させないことが大切です。
慢性化(1~3ヶ月以上)した場合は、一般的な病院治療(服薬、物理療法など)で改善されないケースも多くなります。
そこで特殊な治療として
- トリガーポイントブロック
- 筋膜リリース注射
- 認知行動療法
などを行う病院もあります。
鍼灸、整体、カイロプラクティックも慢性腰痛に有効ですが、知識、技術に大きなばらつきがあり、しっかりと情報収集を行い、信頼できる先生に出会えるかがポイントになります。
トリガーポイントブロック(トリガーポイント注射)
トリガーポイントブロックは、トリガーポイント注射とも呼ばれ 筋筋膜性腰痛症に効果を発揮する治療方法です。
トリガーポイントとは?
硬いしこりのような部分を押して痛みがあり、少し離れた場所に関連痛を引き起こします。
発生原因は
- 反復される運動(使い過ぎ)
- ストレス
- 栄養不足
などがあります。
トリガーポイントブロックの治療方法
トリガーポイントに局所麻酔剤を注射することで、痛みを感じる知覚神経や筋肉を緊張させる運動神経などをブロックされ、腰痛の痛みを和らげます。
腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症と診断された下肢痛を伴う腰痛でも、筋筋膜性の痛みであることも少なくありません。
なぜなら、下肢の痛みが腰部での神経圧迫によるものとすると、痛みが発生するメカニズムを生理学的に説明できないからです。
MSP研究会ホームページにトリガーポイント注射で治療を行う医療機関、施設所が掲載されておりますので、ご興味のある方は覘いてみてください。
筋膜リリース注射について
筋膜は筋肉を包む膜のことで、体全体にある筋肉すべてに張り巡らされ、表層から深層まで立体的に包み込んでいます。
また、
- 筋膜は筋全体を覆っている最外層の筋外膜
- いくつかの筋線維を束ねて覆っている筋周膜
- さらに筋線維1本1本を包む筋内膜
この3種類に分けられます。
筋肉は、体中に多数あり密接しています。そのため、 何らかの原因で隣接する筋膜同士が癒着してしまうと滑動性が損なわれ痛みやしびれを引き起こすと言われています。
筋膜リリース注射は、エコー(超音波診断装置)で筋膜の癒着部分を確認し、その部分に生理食塩水を注射で流し込み、癒着を解消します。
筋膜リリース注射は、トリガーポイント注射と同様に 筋筋膜性腰痛症に効果を発揮し、MSP研究会で紹介している医療機関、施設所で受けられるところがあります。
認知行動療法の特徴
認知行動療法は、心理療法の一種でものの受け取り方や考え方に働きかけ気持ちを楽にしていく療法です。
科学的根拠が最もある治療法
最近では、慢性的な腰痛は脳が原因であるともいわれ、実際、 慢性痛に対して認知行動療法が有効であるという研究が数多く発表されています。
慢性痛の中には、組織自体には何の問題もなく医学的には治っているにも関わらず、痛みが継続してしまうことがあります。
このように痛みのメカニズムは複雑であり、心理的要因も痛みの一因とされています。
慢性の腰痛が及ぼす影響は痛みそれ自体だけではなく、痛みによって、それまでしてきた趣味や仕事を含めた日常生活が送りづらくなっています。
「いつまで痛みが続くのか」
「痛みがこれから悪化しないか」
などの不安な考えが頭を駆け巡ることも少なくないのではないでしょうか。
慢性の腰痛に対する認知行動療法は、日常生活の不自由さや悲観的な考えを軽減させて、 幸せを感じる生活を取り戻すのに有効であることが実証されています。
鍼灸の特徴
鍼灸治療は、2000年以上前からある伝統的な東洋医学治療です。
鍼治療の効果
鍼灸治療の効果には諸説ありますが、鍼の刺激が自律神経系や免疫系に働きかけ、 自己免疫力の向上や鎮静効果があると言われています。
また、先に紹介したトリガーポイントに対して鍼治療も効果があるとされ、トリガーポイント治療を行う鍼灸院もあります。
このような理論もありますが、鍼灸というと「ツボ」というイメージをもつ方も多いのではないでしょうか。
ツボはエネルギーや体液の通り道が交わる点を呼び、そこに鍼刺激をくわえることで 身体中のエネルギ―や体液の循環バランスが良くなり、身体が回復するというのが東洋医学的な理論です。
鍼灸の腰痛治療
アメリカの内科学会が公表した腰痛治療のガイドラインでは、
急性または亜急性の腰痛を有する患者の大半が治療に関係なく時間とともに改善することを考えると、臨床医および患者は、表面熱(適度な質の証拠)、マッサージ、鍼灸、または脊髄操作(低品質の証拠)による非薬理学的治療を選択すべきである。
鍼治療も推奨されており世界でも一定の効果が認められていると言えるのではないでしょうか。
また、鍼の効果を立証する論文も存在しており、病院で原因の解らない腰痛が回復することは少なくありません。
整体・カイロプラクティックの特徴
整体とカイロプラクティックは厳密に言えば違いますが、 民間療法(国家資格が不要)で徒手療法(基本的に手を使った療法)という共通点があります。
整体、カイロプラクティックの効果
国家資格ではないため(カイロプラクティックは海外では国家資格として認められている国も多いです)民間資格を発行している団体に教育を任せていることから、教育基準がバラバラです。
そのため、数日のセミナーや通信教育だけで開業する人も日本では少なくありません。
このことから、整体やカイロプラクティックの施術院は一定の水準を保てておらず、しっかりと情報収集をしてからでないと、無知な施術者や技術のない施術者の施術を受けてしまい、余計に悪化する可能性もあります。
しかし、知識、技術ともに申し分のない整体師、カイロプラクターであれば、前述したトリガーポイント、筋膜へのアプローチは徒手的に可能なため、筋筋膜性腰痛症でも改善します。
整体、カイロプラクティックの腰痛治療
優れた施術者に腰痛治療を行ってもらう前提ですが、筋筋膜性の腰痛以外にも関節障害(仙腸関節障害、椎間関節症など)、神経痛などを伴う腰痛は回復可能です。
カイロプラクティックにおいては世界保健機構が認めている徒手療法です。
腰痛を予防するおすすめの方法
人によって腰痛になる過程は、十人十色で全ての人が確実に予防できるエクササイズ、ストレッチ、食事方法はありません。
そのため基本的には、 睡眠を十分にとり、食事は栄養のバランスを考え、無理ない範囲で運動を続けるなど生活習慣を見直すことが、効果的な予防方法と言えます。
ただ、ある程度の予防をすることは大切ですので、ここでは誰でもできる予防法を5つ紹介します。
同じ姿勢を続けない
「反り腰が腰痛の原因!さあ反り腰を改善しましょう。」
皆さんこのような記事を見たことがあるのではないでしょうか?
本当に反り腰だけが腰痛の原因でしょうか。
腰痛には上記で紹介した筋筋膜性腰痛という腰痛があります。
これは何らかの原因により筋肉の血流が悪くなった結果、筋肉内に硬結といわれるしこりのようなものが出来た状態を指します。
では何故筋肉の血流が悪くなるのか?
これは同じ姿勢を長時間続けることが原因の一つと言われています。
現代人の生活や仕事において欠かせないパソコンやスマートフォンの爆発的な普及により、私たちが同一姿勢でいる時間は長時間化しています。
やむ負えず同一姿勢での作業が続く場合は定期的に腰部を軽く動かす習慣をつけましょう。
これにより 腰部の筋肉の血流が増加し硬結を予防するとともに、背骨と背骨の間の椎間板、椎間関節と言われる部位へ掛かる圧もリセットできます。
また作業する際の環境設定がとても大切になります。
- 机・椅子を適切な高さにする
- パソコンの高さを調節する
- 作業台の高さを調節する
等のひと手間が腰痛予防には大切です。
料理等やむ負えず立位姿勢での作業が長時間続く際は、片足を台に乗せるなどの工夫をして、腰部の中で腰部の筋肉に掛かる負担軽減と、背骨の関節に圧がかかる位置を動かすようにしていきましょう。
床から荷物を持ち上げる際は一度しゃがんでから
日常生活において床など低い場所から荷物を持ち上げる場面は多いのではないでしょうか?
その際皆さんは一度しゃがんでから持ち上げるようにしていますか?
実は立ったまま荷物を持ち上げる方がほとんどなのです。
ウェイトリフティングをご存知でしょうか?
ウェイトリフティングの選手がバーベルを持ち上げる姿勢を思い浮かべてください。
少しイメージがわかない方は下記の動画をみてみてください。
お尻は後ろへ引き、背中がピンと伸びていますよね?
この姿勢こそが 重量物を持ち上げる際に理想的な姿勢なのです。
足を伸ばして体を前に倒して物を持ち上げる動作では主に腰部の筋肉の力で上体を起こし、物を持ち上げています。
一方、一度しゃがんでお尻を後方へ引き背中を伸ばした状態で物を持ち上げる場合、主に足の力を使い物を上方へ持ち上げています。
日常生活においてよくある場面ですのでどうしても面倒くささが勝ってしまい、前者のような動きをしている人も多いのではないでしょうか?
この生活の中のひと手間が腰を守ってくれるのです。
ストレスを溜め込まない
腰痛は主に
- 原因がはっきりしている特異的腰痛
- 腰痛がはっきりしない非特異的腰痛
の2つに分類することができます。
全腰痛のうち後者の非特異的腰痛が85%を占めるという調査結果も出ていて、この 非特異的腰痛の90%は約6週間の間に自然治癒するといわれています。
では何故あなたの腰痛は治らないのでしょうか?
通常患部の炎症が継続する期間は長くても9週間。
9週間以上腰痛が継続している場合は急性痛から慢性痛へと移行している可能性があります。
慢性痛を構成する要素には上記でも紹介したように 心理的影響が強いのです。
痛みを経験したことによるネガティブな思考が腰痛への恐怖を増強。
更なる不動を呼び、筋肉量低下や筋血流量の低下を招き、腰痛が増強する負のスパイラルに陥っている可能性があります。
この負のスパイラルを打ち切るには
- 痛みを我慢できる範囲内で少しずつ体を動かしていくこと
- 腰痛だけに意識を向けず自分の好きなことや楽しいと思えること
を行っていくことが大切です。
適度な運動習慣をもつ
これは皆さん感じていることではないでしょうか?
運動をすることによって『ストレスを溜め込まない』で説明したように腰痛の負のスパイラルを断ち切ることができます。
運動により
- 身体の筋肉量増量
- 血行促進
- 可動域改善
といった直接的な効果に加え、 認知の改善や気分の改善といった心理的効果の影響は非常に大きいものです。
ながら運動なら手軽にできる
忙しい現代人において毎日運動時間を作るのは容易ではありません。
ここでは『ながら運動』で運動量を確保する方法をご紹介いたします。
よく知られた方法ですが
- いつもより一つ前の駅やバス停で降りて歩く
- 歯磨きをしながらスクワットをする
これだけの運動でも毎日続けることで大きな効果を発揮します。
運動をする必要性は感じているけどジムに行っている暇はないという方は是非試してみてください。
また、皆さん『腰痛には腹筋運動!』と耳にした事があるのではないでしょうか。
腹横筋を始めとしたインナーマッスルと言われる深層筋のコルセット作用は実は効果が明確になっていません。
闇雲に腹筋運動を繰り返すよりも、 脊柱起立筋を始めとする腰背部の筋肉の強化を図る方が現在の医学では有効とされていますので参考にしてください。
しっかりと休息・睡眠をとる
昨今テレビCMでも色々なマットレスが紹介されているように、睡眠において寝具が与える影響は非常に大きいです。
睡眠を毎日8時間とるとすると、1日の1/3はベッドの上で過ごしていることになります。
この時間ずっと同じ姿勢で寝ていたとしたらどうでしょう?考えただけでも腰が痛くなりそうですね。
人は一晩でおよそ24回寝返りを打つといわれています。
この寝返りを妨げるものが柔らかすぎるマットレス、硬すぎるマットレス。
人間の背骨は立った姿勢をとった際に頭の重さを効率的に支えるため、生理的湾曲といわれS字カーブをしています。
良いマットレスの選定方法においてもこの生理的湾曲を維持し、特定の部位に荷重が集中しないことが挙げられています。
マットレスを購入する際は実際に寝てみて、寝返りをして寝返りのし易さを体験してみましょう。
睡眠前はパソコンやスマホはなるべく見ない
また、寝る前のパソコンやスマートフォンの使用は交感神経を刺激して快適な睡眠を妨げます。
照明や空調の適切な使用と共に注意をしていく必要があります。
まとめ
今回は、腰痛について原因から改善方法、予防方法などを解説させていただきました。
なかには腰痛の多さに驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
腰痛は、誰もが経験しうる症状ではありますが、決して治らないワケではありません。
ただ、「〇〇すれば腰痛が治る」「〇〇すれば腰痛予防できる」という書籍、ネットやテレビ情報などありますが、個人的な見解であることが多く、鵜呑みにすると悪化する恐れもあります。
まずは、予防の意識をもち腰痛になってしまった場合は、自己判断せず専門家に相談し早期に適切な処置を行えるようにしましょう。